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二次創作系サイト『消失空間』の更新日記
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 超小出し更新四回目。
 日付が変わるまでにぎりぎりで間に合いませんでした……。
 あと一回で終わりです。
 ちまちまとした更新ですいません。

『決して完璧ではないけれど』4



 その広場は山の頂上付近にあるとは思えないほど広く、山の上にあるからこその景色が奇麗だった。
 他にもたくさんの人がいるし、お弁当屋もあるほどきちんと整備された場所。
 さすがは登山で有名な山なだけはある。
 涼宮ハルヒが一番見晴らしのいいところに陣取りながら宣言した。
「それじゃあ、お弁当タイムね! 時間は……ちょっと予定より遅いくらいだけど、お腹が減っててちょうどいいわ」
 確かに。慣れない運動をしたせいかもしれないけど、もうお腹はぺこぺこだった。
 この広場に到達する直前には、結構大きな音でお腹が鳴って、後ろにいる彼に聞こえていないか心配になったくらいだ。
 古泉一樹と彼がシートを敷いていく。
 その上に手際よく涼宮ハルヒが弁当箱を並べていった。
「さ、女子合同で作ったお弁当よ。遠慮なく食べなさい!」
「合同で?」
 彼が少し驚いたような声をあげた。それに応えて涼宮ハルヒが頷く。
「そうよ。昨日、皆で有希ちゃんの家に集まって色々仕込みをして頑張ったんだから! 心して食べなさいよ!」
 言いながら、なぜか涼宮ハルヒは彼に対して目で合図を送っているようだった。合図の意図がわからない。
「なるほど。それで昨日は不思議探索はなかったのですね」
 古泉一樹は妙に納得した風情で何度も頷いている。
「……三人でか?」
「そうよ。当たり前じゃないの」
 咎めるような目線を彼に向ける涼宮ハルヒ。
 彼は少しの間、何かを考えていたようだったけど、やがて何かを納得したかのように頷いた。
「ああ、わかった。それじゃ、ありがたく頂こうか」
「そうよ、ありがたく思いなさい! あたしたちにお弁当を作ってもらえるなんて、この上ない名誉だわ!」
「お前はどれだけ偉いんだよ……」
「SOS団の団長だもの! 偉いわよ!」
 コントのようなやり取りののち、お弁当タイムとなった。
 お弁当が開かれ、色とりどりの料理が広げられる。そのお弁当を囲むようにしてわたしたちは腰をおろした。
 料理を見た男子二人が快哉をあげる。
「すげえな……」
「これほどとは思いませんでした。どれも素晴らしい出来で美味しそうです」
 さすがは涼宮さんですね、と古泉一樹は彼女を持ち上げる。彼女は得意そうにその胸を逸らした。
「あたしたちが作ったんだから当然よ! さ、食べるわよ!」
 それぞれ箸を取り、好きな料理を取って食べ始めた。
 空腹だったこともあるのだろうけど、どの料理も味見をしたときの何倍も美味しかった。
 食べながら、わたしはこっそりと彼の様子を伺う。
 料理を食べた彼の反応が気になったのだ。かといって正面から訊く勇気もなかったわたしは食べた彼の反応を見て判断しようと思ったのだけど……。

 目が合った。

 なぜか彼はこちらを見ていた。
 驚いて固まるわたしに、彼が声をかけてくれる。
「長門も作ったんだよな。……怪我とかはしてないよな?」
 わたしの指先を見ながら彼は言う。
 彼にはわたしが毎日ろくな物を食べてないということを――つまりはコンビニの弁当や総菜で済ませていることを――知られている。
 料理などほとんどしたことがなかったから、彼の懸念は最もだった。
 とりあえず怪我はしていなかったので頷いて彼の質問に答えた。大体、いくら不器用でも、いくら不慣れでも、マンガのように指先が例外なく包帯でぐるぐる巻きになるようなことには、現実的にならない。
 彼は一つ溜息を吐く。
 それは諦めや呆れの溜息ではなく、安心や安堵の溜息。
「そうか。――長門が作ったのはどれだ?」
 その問いに、わたしはまた固まることになった。
 作ったも何も、実のところわたしは二人のサポート役だった。料理にさえもそのオールラウンダーな能力を発揮する涼宮ハルヒと、料理が得意だという朝比奈みくる。その二人に比すればわたしなど足手まといでしかない。
 だからほとんど重要な部分には参加していないのが実際のところだった。わたしがやったことといえば野菜を切ったり、鍋の火を見ていたり、言われるままに調味料などを渡したり……くらい。
 だから『わたしが作った』と言えるようなものはほとんどなくて――。
 だけど彼が妙に期待しているようだったので、何も言わないわけにもいかず、何も示さないわけにもいかず、とっさにわたしはある一つの料理を指さした。
 その料理とは、お弁当の中で最も基本的な料理――火も包丁も使わない唯の――おにぎりだった。
 残念なことに『わたしが作った』と言えるものはそれしかない。
「これか?」
 そう言って彼がわたしの示したおにぎりを見る。
 ……示してから後悔した。
 おにぎり、というものは実に単純なもので、単純だからこそ熟練度がはっきり出てしまう。
 事実、いくつか並べられたおにぎりの中で、わたしが手掛けたおにぎりは――悪い意味で――明らか。
 ある程度形は整っているけど、その隣にある完璧な形(涼宮ハルヒ作)のものと比べれば不格好と呼べるレベルだった。
 やっぱり示さなければよかった。すでに彼にはわたしが料理が出来ないことも知られているとはいえ、わざわざ無様な料理を示すくらいなら、最初から『サポートに徹した』としておいた方がよかったかもしれない。
 しかし時すでに遅し。
 彼はおにぎりを手に――それも形の悪い、つまりわたしが握ったものを――取り、ぱくり、と食べてしまった。
 一瞬、彼の眉がぴくりと動く。
「……塩っ辛いな」
 彼がそう小さく呟くのが聞こえてきた。
 そういえば塩の適量がわからなかったため、付けすぎてしまったかもしれない。
 焦ったけど、次に彼が口にしたのは意外な言葉だった。
「でも、疲れてるときには丁度いいな。ひょっとして予測してたのか?」
 その言葉を聞いた涼宮ハルヒがおにぎりをつまんで口に入れる。
「あら、ほんとね。塩が利いてて美味しいじゃない」
 ちょっと掴み所のない笑みを浮かべた古泉一樹が、わたしの方を見ながら言った。
「さすがは長門さんですね」
 明らかに持ち上げてくれているのがわかるセリフだった。
 そんな予測は立てていなかったのに……。どう反応したらよいのか困ってしまって、結局何も言えない。
 彼がもう一個おにぎりを手に取る。
「うん、美味い」
 そう言って彼は笑顔を向けてくれた。
 それだけでわたしにはもう十分すぎる。
 あまりに気恥かしくて、わたしはほとんど顔を上げていられなかった。



5に続く

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