第一回超小出し更新『決して完璧ではないけれど』、最後の更新です。
サイトの方にも全部まとめたものをアップしておきます。
うーん、どうもいまいちな出来栄えのような気がしてなりません。スランプかなあ?
『決して完璧ではないけれど』
弁当を食べた後。
食べ終わってすぐに運動するのはよくないとの古泉一樹の意見から、わたしたちSOS団は広場でしばらく休むことになった。
各々、違う場所からの景色を見に行ったり、シートの上で休んだりと思い思いに過ごしていた。
わたしは食べたばかりで動く気がせず、シートに座ってお茶をのんびりと飲んでいた。(ちなみに飲んでいるのは朝比奈みくるが入れてくれたお茶で、とても美味しい)
わたしは普段、こういう風に時間が空いたら本を読むようにしているが、さすがに山登りをするのにかさばる本は持ってきていない。
代わりに本では見れない自然の景色を眺めた。
広がる景色は、どこまでも雄大で、こうしてSOS団の活動に参加していてよかったと思う。一人なら絶対に来ない類の場所だから。
最初のころは戸惑うことが多かったけど、慣れれば彼女たちといるのも楽しい。――なにより彼がいる。
思わずそう思ってしまい、周囲にはわからないとわかっていたけど慌てた。
そっと周囲を窺ってみたけど、幸い誰も気づいていないようだった。
ほっとしながら、改めて周囲を見渡す。
さすがに春だけあって緑は青々としていた。もちろん登っている時から気づいてはいたけど、こうしてゆっくり休みながら見るのでは印象が違う。
ふと、すぐ近くの茂みの辺りで綺麗な花が咲いていることに気づいた。
花の形から見るに、ユリのようだけど……。
もう少し詳しく見ようとそれを見つめていたら、突然背後から声がかけられた。
「長門。それはササユリっていうみたいだな」
驚いて振り返ると、彼が一冊の本を広げていた。
「ほら、葉っぱが笹みたいだろ? だからササユリっていうだってさ。六月くらいに咲く花みたいだけど……今年はちょっと咲くのが早いのか?」
野草に関連する本らしい。彼はそれを見ながら話していた。
花のことを知れたのは嬉しいし、彼に感謝するけど、かさばる本をわざわざ持ってきていたのだろうか?
その疑問が顔に出たのか、彼は苦笑しながら本を閉じた。
「覚えられたらよかったんだけどな。そんな頭いいわけじゃないから、本を持ってこないとわからなくってさ」
荷物が重くなると自覚しつつも、持ってきたのだという。
「こういう場所に登るんだから、花とか見る機会もあると思ってな。そんなとき、花の名前とかわかったら楽しいだろ?」
彼の言う通りだと思う。
その向学心の高さに感心した。なんでそれなのに成績は良くないのだろう。不思議。……と考えるのは失礼だろうか。
こっそり首を傾げていると、彼は本をめくりながら呟いた。
「長門は山登り初めてだろうしな……少しでも楽しくなれば……」
その呟きを聞いてしまったわたしは、思わず耳を疑った。
ひょっとして…………彼はわたしのためにわざわざ本を持って来てくれたのだろうか?
荷物が重くなるのに?
呆然とわたしが彼を見つめていると、横から涼宮ハルヒが割り込んできた。
「なに? なに持ってんのジョン。……野草の本?」
「ああ。使えるかと思ってな」
「あんたこれくらい覚えてこれなかったの? わざわざ荷物重くしてさ……」
「仕方ないだろ。俺はそんなに記憶力は……」
二人が話すのを聞きながら、わたしは花に――ササユリに――目を戻した。
彼は確かに完璧ではない。
天才でもなければ、超人でもない。
至って普通の一般人だ。
だけど――。
決して、完璧ではないけれど。
彼と一緒にいれて――彼が一緒にいてくれて――良かったと思う。
涼宮ハルヒと言い合っている彼を見ながら、わたしはそう思った。
『決して完璧ではないけれど』 おわり
PR